■ 成年後見
■ 「任意後見制度」とは
1.「任意後見制度」とは |
(1)「任意後見制度」とは
「任意後見制度」とは、①ご本人が、判断能力が十分なうちに、将来、判断能力が低下した場合に備えて、「任意後見人」になってほしい方との間で、予め「任意後見契約」(公正証書)を締結しておき、②ご本人の判断能力が実際に低下した段階で、ご本人、配偶者、4親等内の親族、任意後見受任者(ご本人と任意後見契約を締結した、任意後見人になる予定の者)が、家庭裁判所に対し、任意後見監督人選任の審判の申立てを行い、家庭裁判所が「任意後見監督人」を選任することにより、任意後見契約が発効し、任意後見が開始する制度です。
(2)「任意後見監督人」とは
「任意後見監督人」とは、任意後見が開始した後、ご本人に代わって、任意後見人の事務を監督する者のことをいいます。
通常の「委任契約」であれば、「委任者」であるご本人が、事務を委託された「受任者」から、随時、事務の報告を受け、委託した事務が問題なく遂行されているかどうかを確認することができます。しかし、任意後見契約の場合、契約が発効し、実際に任意後見人がその事務を開始するのは、ご本人の判断能力が低下した後のことになりますので、ご本人が任意後見人の事務の遂行状況を自ら把握することが難しくなります。そこで、判断能力の低下したご本人に代わって、任意後見人を監督する「任意後見監督人」の存在が必要とされ、その選任の審判が、任意後見契約を発効させるための条件のひとつとなっています。
(3)法定後見制度と任意後見制度の比較
法定後見制度と比較した場合、任意後見制度は、任意後見人を誰にするか、任意後見人にどのような事務を委任するか、任意後見人の報酬の金額をいくらにするか、などを当事者間で自由に決定することができる点が特徴です。
【 法定後見制度と任意後見制度の比較 】
法定後見制度 | 任意後見制度 |
事後的措置 | 事前的措置 |
【 審判による制度 】 成年後見人等、成年後見人等の権限の範囲、成年後見人等の報酬付与は、家庭裁判所の審判による |
【 契約による制度 】 任意後見人、任意後見人の権限の範囲、任意後見人の報酬付与は、当事者間の契約による (ただし、任意後見監督人、任意後見監督人の報酬付与は、家庭裁判所の審判による) |
家庭裁判所による直接監督 | 任意後見人監督人を通した 家庭裁判所の間接監督 |
取消権による本人の保護が 図れる |
取消権による本人の保護が 図れない |
【審判と資格制限】 ①選挙権・被選挙権の喪失 (成年後見の場合) ②公務員等の就業資格、専門資格、責任資格の喪失 (成年後見・保佐の場合) ③印鑑登録の抹消 (成年後見の場合) |
制限規定なし |
2.任意後見契約公正証書作成の手続 |
(1)任意後見契約書の起案
ご本人と、任意後見人を引き受ける方との間で、任意後見契約の内容(主に①後見事務の範囲(任意後見人に付与する代理権)、②任意後見人の報酬の金額、③後見事務の報告方法等)を協議し、任意後見契約書の原案を作成します。
任意後見人に付与する代理権の具体的な内容については、「任意後見契約に関する法律第3条の規定による証書の様式に関する省令」の「附録第1号様式」をご参照いただければと思います。
代理権目録(附録第1号様式)【PDF】
また、任意後見契約は、ご本人の判断能力が低下してから、ご本人が亡くなるまでの後見事務に関する契約になりますので、ご本人の判断能力は十分だけれども財産管理等を依頼したい場合(お身体が不自由な場合等)、ご本人の亡くなった後の事務(ご葬儀の手配等)を依頼したい場合は、任意後見契約と併せて、別途、「日常生活見守り等委任契約」「財産管理等委任契約」「死後事務委任契約」を締結する必要があります。
【 任意後見契約に関連する契約 】
日常生活見守り等委任契約 | 毎月1回程度、ご自宅への訪問または電話連絡により、ご本人の日常生活のご様子を見守ります。 |
財産管理等委任契約 | 身体能力が不十分になった場合に、委託された代理権に基づき、財産管理等を行います。 |
死後事務委任契約 | 遺言執行に含まれない死後事務(ご葬儀の手配、市役所への届出等)を行います。 |
(2)必要書類の準備
ご本人に関するもの | 任意後見受任者に関するもの |
① 戸籍謄本 ② 住民票の写し ③ 印鑑証明書及び実印 |
① 住民票の写し ② 印鑑証明書及び実印 |
(3)任意後見契約公正証書の作成
任意後見契約は、公正証書によってしなければならないとされています(任意後見契約に関する法律第3条)。
まず、事前に、公証役場にて、公証人と契約内容に関する打ち合わせを行い、作成日の予約を行います。当日、ご本人と任意後見受任者が、公証役場にて、公証人が作成した任意後見契約公正証書に署名・押印を行い、任意後見契約を締結します。ご本人、任意後見受任者それぞれに対し、任意後見契約公正証書の正本が交付されますので、大切に保管しておいてください。契約締結後、公証人の嘱託により、後見登記がなされます。
(4)任意後見契約締結後の流れ
任意後見契約を締結しても、ご本人の判断能力が低下し、家庭裁判所による任意後見監督人選任の審判があるまで、任意後見契約は発効しません。任意後見受任者が行政書士・司法書士等の専門職後見人である場合は、「日常生活見守り等委任契約」や「財産管理等委任契約」を併せて締結し、委託された見守り事務または財産管理事務を行いながら、ご本人のご様子を見守っていきます。
3.任意後見監督人選任の審判の申立ての手続 |
申立てをすることができる人 | |
① ご本人 ② 配偶者 ③ 4親等内の親族 1)親、祖父母、子、孫、ひ孫 2)兄弟姉妹、おい、めい 3)おじ・おば、いとこ 4)配偶者の親、子、兄弟姉妹 ④ 任意後見受任者 |
ご本人以外の者の申立てにより任意後見監督人選任の審判をする場合、ご本人の同意が必要です(任意後見契約に関する法律第4条第3項)。
(1)「診断書(成年後見用)」の作成
ご本人の主治医に「診断書(成年後見用)」の作成を依頼します(必ずしも精神科の医師に依頼しなくても構いません)。
「診断書(成年後見用)」(東京家庭裁判所)【PDF】
(2)申立書類の作成
申立書類一式を作成し、戸籍謄本・住民票の写し・後見登記事項証明書・登記されていないことの証明書の交付申請を行い、必要書類を準備します。
「任意後見監督人選任の申立てをされる方へ」(東京家庭裁判所)【PDF】
申立書類一式(東京家庭裁判所)【PDF】
(3)申立て
ご本人の住所地を管轄する家庭裁判所に対し、申立てを行います。東京家庭裁判所では、郵送または持参(予約不要)にて、申立てを受け付けています。申立後、家庭裁判所による本人調査(本人との面接)、必要に応じて、親族への照会などが行われます。
管轄する家庭裁判所を調べる【裁判所のHP】
(4)審判後の流れ
審判後、2週間の即時抗告期間を経て、審判が確定し、家庭裁判所の嘱託により、後見登記がなされます。任意後見人は、就職後、ご本人の財産を調査し、財産目録を作成して、選任された任意後見監督人へ提出します。
4.任意後見制度を利用するための費用 |
(1)任意後見契約公正証書作成時に必要な費用
費 用 | 金 額 |
公証人手数料 |
11,000円 |
公正証書正本2通 |
約6,500円 |
公正証書謄本1通 |
約3,250円 |
登記嘱託手数料 |
1,400円 |
収入印紙 | 2,600円 |
書留郵便料 |
約540円 |
公証人が自宅、病院等へ出張して公正証書を作成する場合、公証人手数料が5割増しになるほか(16,500円になります)、日当及び交通費が加算されます。
また、任意後見契約と併せて、「財産管理等委任契約」等の委任契約を締結する場合には、その委任契約について、別途、公証人手数料等の費用が必要になります。
(2)任意後見監督人選任の審判の申立時に必要な費用
費 用 | 備 考 |
収入印紙 2,200円 (申立費用800円) (登記費用1,400円) |
- |
郵便切手 2,980円 |
東京家庭裁判所の場合。 内訳は「任意後見監督人選任の申立てをされる方へ」を参照してください。 |
(3)任意後見開始後に必要な費用
任意後見人の報酬 | 任意後見契約において定められた方法で、ご本人の財産の中から、任意後見人に対し、報酬が支払われます。 |
任意後見監督人 の報酬 |
任意後見監督人が家庭裁判所に対し「報酬付与の審判の申立て」を行い、家庭裁判所が審判により報酬の金額を決定し、ご本人の財産の中からその報酬が支払われます。 |
後見事務費用 | 任意後見契約において定められた方法で、ご本人の財産の中から、任意後見人が後見事務を遂行するうえで必要な郵送費・交通費等の実費を支出します。 |