■ 遺 言
■ 「遺言」とは
1.「遺言」とは |
「遺言(いごん)」とは、自己の死亡後の財産または身分に関する法律関係を定めることを目的として、法律の定める方式に従って行う意思表示のことをいいます。法的効果を発生させることを目的としていますので、遺訓や単なる心情・希望を記載した「遺書」は、法律上の遺言ではありません。また、遺言の方式は法律に定められており、その方式に従わなかった遺言は、無効になってしまいます(民法第960条)。たとえば、書面によらないもの(口頭でなされたもの、録音・録画されたもの)や、書面が作成されても所定の方式を欠いたものは、遺言として成立しませんし、たとえご夫婦であったとしても、2人以上の者が同一の証書で遺言することができません(民法第975条)ので、注意が必要です。
遺言をしたほうが良い場合 | |
① 相続人間に争いが予想される場合 ② 先夫・先妻との間に子がいる場合 ③ 夫婦の間に子がない場合 ④ 相続人ではない者に財産を遺したい場合 1)内縁の夫・妻 2)愛人 3)孫(子が相続人となる場合) 4)子の配偶者 5)その他、お世話になった人など ⑤ 財産を遺したくない相続人がいる場合 ⑥ 相続人が誰もいない場合 ⑦ 事業を相続人のうちの一人に承継させたい場合 |
2.遺言能力 |
遺言は、満15歳に達した時から行うことができます(民法第961条)。また、遺言をする時において、遺言能力(自分のする遺言の内容及びその結果生じる法律効果を理解することのできる能力)を有する必要があります(民法第963条)。
遺言は、代理によって行うことができません。また、判断能力の低下した高齢者・障害者の方であっても、遺言能力を有していれば、遺言をすることができますが(民法第962条)(成年被後見人については、判断能力を一時回復した時に、医師2人以上の立会いを要件として、遺言をすることができるとされています(民法第973条))、後々、遺された者の間で遺言能力の有無について争いが生じる恐れがあります。
3.法定遺言事項 |
遺言によって定めることができる事項(遺言事項)については、法律で規定されています。
法定遺言事項 | |
【相続財産に関する事項】 ① 相続分の指定またはその指定の委託 ② 遺産分割方法の指定またはその指定の委託、 遺産分割の禁止 ③ 遺贈の減殺方法の指定 ④ 相続人の担保責任の指定 ⑤ 遺贈 ⑥ 一般財団法人の設立 ⑦ 信託の設定 ⑧ 生命保険及び傷害疾病定額保険金の受取人の指定変更 ⑨ 特別受益持戻しの免除 【身分に関する事項】 ① 推定相続人の廃除またはその取消し ② 認知 ③ 未成年後見人、未成年後見監督人の指定 【その他】 ① 遺言執行者の指定または指定の委託 ② 祭祀主宰者の指定 |
法定遺言事項以外の事項(葬儀の方法の指定や扶養・養育命令など)については、付言事項として記載し、遺言者の希望・思いを伝えることはできますが、法的拘束力はありません。
4.遺言の撤回 |
遺言は、いつでも自由に撤回したり、新たに遺言をしたりすることができます(民法第1022条)。また、①前の遺言の内容が後の(新たな)遺言の内容と抵触する(矛盾する)場合、②遺言の内容が遺言後の生前行為と抵触する場合(たとえば、遺贈の対象とした不動産を生前に売却した場合など)、③遺言者が故意に遺言書を破棄した場合、④遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄した場合は、遺言(の抵触する部分)を撤回したものとみなされます(民法第1023条、第1024条)。
5.遺言執行者 |
(1)「遺言執行者」とは
「遺言執行者」とは、相続開始後、遺言者に代わって、遺言の内容を実現する(遺言を執行する)者のことをいいます。遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し(民法第1012条第1項)、遺言執行者がいる場合には、相続人は、遺言の対象となった相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるような行為を禁止されます(民法第1013条)。
遺言執行者は、①未成年者、②破産者を除き、誰でもなることができます(民法第1009条)(遺言の証人、受遺者、相続人であっても、遺言執行者になることができます)。また、その選任方法は、①遺言者が遺言で指定するか、②(遺言執行者がないとき、または、なくなったときは)利害関係人が家庭裁判所に対し「遺言執行者選任の審判の申立て」を行って、家庭裁判所の審判により選任されるか、いずれかの方法によります(民法第1006条、第1010条)。
法定遺言事項のうち、「推定相続人の廃除またはその取消し」及び「認知」については、遺言執行者によって執行しなければならないとされていますので、これらついては、遺言で遺言執行者が指定されていない場合、家庭裁判所による選任が必要となります。また、それ以外の場合であっても、遺言執行者は、不動産の所有権移転登記申請、預貯金の名義書換・払戻請求などを行うことができるので、遺言で遺言執行者を指定しておくことの実益があります。
(2)遺言執行者の職務
遺言執行者の主な職務には、次のようなものがあります。
遺言執行者の職務 | |
① 相続財産の目録の作成 ② 認知に関する戸籍上の届出 ③ 相続人の廃除または廃除の取消しに関する 家庭裁判所への請求及び戸籍上の届出 ④ 不動産の所有権移転登記申請 ⑤ 受遺者への遺産の引渡し ⑥ 相続財産の管理、その他遺言の執行に必要な一切の行為 |
(3)遺言執行者の報酬
遺言執行者の報酬は、①遺言者が遺言で指定するか、②(遺言による指定がない場合は)相続開始後、家庭裁判所に対し「遺言執行者の報酬付与の審判の申立て」を行い、家庭裁判所の審判によりその金額が定められるか、いずれかの方法で決定します(民法第1018条)。また、遺言の執行に要する費用(遺言執行者の報酬を含む)は、相続財産から支出することになります(民法第1021条)。