■ 遺 言
■ 「遺言の方式」とは
遺言には、普通方式として、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3種類があります(民法第967条)。
1.自筆証書遺言 |
(1)「自筆証書遺言」とは
「自筆証書遺言」とは、その名の通り、遺言者が自書して作成する遺言のことです。便箋と筆記用具さえあれば、費用がかからず、自分ひとりで手軽に作成することができますが、方式の不備により遺言が無効になるおそれがあります。また、自宅等で保管しなければならないので、遺言書自体を紛失してしまったり、内容を書き換えられてしまったりする危険があります。
【 自筆証書遺言の長所と短所 】
長 所 | ① 自分一人で簡単に作成することができる。 ② 費用がかからない。 |
短 所 | ① 紛失・改変・隠匿の恐れがある。 ② 無効になる恐れがある。 ③ 相続開始後、家庭裁判所の検認を要する。 |
(2)自筆証書遺言の作成
遺言者が、遺言の内容の全文・日付・氏名を自書し、署名の下に印を押します(民法第968条第1項)。代筆で作成したもの、ワープロやタイプライターなどで作成したものは無効です。また、押印に使用する印鑑は、三文判(認印)で構いません。
遺言内容の文言上の変更(加入・削除・訂正)をする場合、その方式が法律により定められており、この方式が守られていない場合、変更自体が無効になってしまいます(民法第968条第2項)。
自筆証書遺言の加入・削除・訂正の方式 | |
1.変更の場所を指示する 原文の変更の場所に、加入の場合は{印を付け、削除・訂正の場合は二本線を引き、変更後の文章を書き加えます。なお、もともと記載してあった文章は、塗りつぶさずに、判読できるような状態にしておきます。 2.変更の場所に押印する 遺言書に押印した印鑑と同じもので、変更の場所に押印します。 3.変更した旨を付記し、署名する 変更の場所の上部欄外に付記・署名する場合は「本行○字加入○字削除 遺言太郎」のように、遺言書の末尾部分に付記・署名する場合は「本遺言中第○項第○行目○字加入○字削除 遺言太郎」のように記載します。 |
2.公正証書遺言 |
(1)「公正証書遺言」とは
「公正証書遺言」とは、遺言者が公証人の面前で遺言の内容を述べ、公証人が証書を作成する遺言のことです。法律の専門家である公証人が作成に関わるため、方式不備により無効になるおそれはありませんが、費用がかかり、証人も2名以上必要となります。
【 公正証書遺言の長所と短所 】
長 所 | ① 原本が公証役場に保管されるので、安全。 ② 公証人が作成に関わるため、内容が確実。 ③ 家庭裁判所の検認を受ける必要がない。 |
短 所 | ① 証人が2名以上必要である。 ② 費用がかかる。 |
(2)公正証書遺言の作成
まず、遺言書の原案を起案し、必要書類を準備します。
公正証書遺言の必要書類 | |
① 遺言者の戸籍謄本 ② 遺言者の印鑑証明書及び実印 ③ 相続人の戸籍謄本または受遺者の住民票の写し ④ 財産に関する資料 (登記簿謄本・固定資産評価証明書・預金通帳・株券等) ⑤ 証人の住民票の写しまたは運転免許証(写) など |
また、証人を引き受けてくれる人を2名、探しておきます。なお、証人には、次の者を除き、誰でもなることができます(民法第974条)。
証人になることのできない者(証人の欠格事由) | |
① 未成年者 ② 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族 ③ 公証人の配偶者、4親等内の親族、書記及び使用人 |
次に、公証役場にて、公証人と遺言内容に関する打ち合わせを行い、作成日の予約を行います。
当日、①遺言者が、証人2名以上の立会いのもと、公証人の面前で遺言の内容を述べ、②公証人がそれを筆記し、③遺言者と証人が、その筆記の内容が正確なことを確認し、それぞれ署名・押印し、④最後に、公証人が署名・押印します(民法第969条)。なお、遺言者が署名することのできない場合、公証人がその理由を付記し、署名に代えることができます(したがって、署名することのできない人が遺言をする場合、自筆証書遺言や秘密証書遺言ではなく、公正証書遺言になります)。また、押印に使用する印鑑は、印鑑登録をした実印でなければなりません。
(3)公正証書遺言の保管
公正証書遺言は、①原本、②正本、③謄本の3種類が作成されます。
原本は、20年間または遺言者が100歳に達するまでの、どちらか長い年数、公証役場に保管されます(なお、平成元年以降に作成されたものであれば、日本公証人連合会がその情報をコンピューターで管理しているため、すぐに調査することができます)。
正本・謄本は、作成日に、その場で遺言者ご本人に交付されますので、ご自身で保管したり、遺言執行者に渡したりするなどして、大切に保管しておいてください。
(4)公正証書遺言の公証人手数料
【 公正証書遺言の公証人手数料 】
財 産 の 価 額 | 手 数 料 |
100万円以下 | 5,000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11,000円 |
500万円を超え1000万円以下 | 17,000円 |
1000万円を超え3000万円以下 | 23,000円 |
3000万円を超え5000万円以下 | 29,000円 |
5000万円を超え1億円以下 | 43,000円 |
1億円を超え3億円以下 | 4万3000円に5000万円までごとに1万3000円を加算 |
3億円を超え10億円以下 | 9万5000円に5000万円までごとに1万1000円を加算 |
10億円を超える場合 | 24万9000円に5000万円までごとに8000円を加算 |
上記手数料は、財産をもらう人(相続人・受遺者)のもらう財産価額ごとにそれぞれ計算します。
また、財産の総額が1億円以下のときは、上記手数料の合計額に、遺言加算として、11,000円が加算されます。
計算の具体例 | |
【例 1】 長男に1億円を相続させる場合 ● 基本手数料(長男への相続) 43,000円 ● 遺言加算額 11,000円 ⇒ 合 計 54,000円 【例 2】 長男に5000万円、二男に5000万円を相続させる場合 ● 基本手数料(長男への相続) 29,000円 ● 基本手数料(二男への相続) 29,000円 ● 遺言加算額 11,000円 ⇒ 合 計 69,000円 |
公証人が遺言者の自宅・病院等へ出張して公正証書を作成する場合、上記手数料が5割増になるほか、日当(1日2万円、4時間まで1万円)及び交通費(実費)が必要になります。
3.秘密証書遺言 |
(1)「秘密証書遺言」とは
「秘密証書遺言」とは、遺言者が自分で遺言書を作成し、内容を秘密にした状態で封筒に入れ、公証人に封紙を貼ってもらう遺言のことです。遺言書を作成するのは自分自身であるため、自筆証書遺言と同じく方式の不備により遺言が無効になるおそれがあります。また、封紙が貼ってあるため、内容を書き換えられるという心配はありませんが、自宅等で保管しなければならないので、遺言書自体を紛失してしまったり、隠されたりする危険があります。
【 秘密証書遺言の長所と短所 】
長 所 | ① 改変の危険性がない。 |
短 所 | ① 証人が2名以上必要である。 ② 費用がかかる。 ③ 紛失・隠匿の恐れがある。 ④ 無効になる恐れがある。 ⑤ 相続開始後、家庭裁判所の検認を要する。 |
(2)秘密証書遺言の作成
①遺言者が、まず、遺言書を作成し、署名・押印します。②次に、遺言者が、遺言書を封筒に入れ、遺言書に押印したものと同じ印鑑で封印をします。③その後、遺言者が、公証人及び証人2名以上の前に、その遺言書を提出し、自分の遺言書であることを申述します(代筆の場合は、代筆者の氏名及び住所も申述します)。④最後に、公証人が遺言書に封紙を貼り、遺言者及び証人とともに署名・押印します(民法第970条)。
(3)秘密証書遺言の公証人手数料
秘密証書遺言の公証人手数料は、11,000円です。
4.家庭裁判所による遺言書の検認 |
「遺言書の検認」とは、遺言者の死後、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。
遺言書(公正証書遺言を除く)の保管者またはこれを発見した相続人は、相続の開始を知った後、遅滞なく、遺言書を家庭裁判所(遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所)に提出して、「遺言書検認の申立て」を行う必要があります(民法第1004条第1項、第2項)。また、封印のある遺言書は、家庭裁判所において、相続人またはその代理人の立会いがなければ、開封することができないとされています(民法第1004条第3項)。なお、検認をしないで遺言を執行したり、家庭裁判所外で遺言書を開封したりした場合、5万円以下の過料に処せられます。
遺言書検認の申立てを受けた家庭裁判所は、検認の期日を相続人全員に通知し、検認期日に、家庭裁判所にて、相続人等の立会のもと、遺言書の開封・検認が行われます。そして、検認後、検認済証明書(遺言書原本に契印されます)が、申立人に交付されます。この証明書と遺言書がセットになり、はじめてその後の相続手続(相続登記や預貯金等の名義書換えなど)で使用することのできる書類となります。
「遺言書検認」の概要(東京家庭裁判所)【PDF】
「遺言書検認申立書」(東京家庭裁判所)【PDF】
管轄する家庭裁判所を調べる【裁判所のHP】